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030 過去と能力

last update Dernière mise à jour: 2025-12-19 11:00:16

「感想が正しいかどうか、そんなことはどうでもいい。お前には誰にも見えていない世界が見えている、そう思ったんだ。

 俺も見える人間だと思ってた。おかげでクラスでも、みんながどう思ってるか、どう望んでるのかを感じることも出来たし、それなりに信頼もされていた」

「君の洞察力の深さ、誇っていいと思うよ」

「でもお前には、俺が見えないものまで見えていた」

「買いかぶりすぎだよ。僕にそんな能力」

「いいや、あるね。現に今だって、お前はずっと考えてる筈だ。俺が何を言いたいのか、何を望んでるのか、何に悩んでるのかって」

「それは……いやいや、普通のことだろ? みんなそうして相手のことを考えて、関係をいいものにしようと思って」

「そう言えるお前だから、俺は勝てないと気付いたんだよ。今お前、みんなって言ったよな。でもな、黒木。人ってのは、そこまで相手のことを考えて生きてる訳じゃないんだ。どちらかといえば、どうやって自分の気持ちを伝えようか、そればかり考えてるものなんだよ」

「そう……かな」

「ああそうだ。それに普通の人間は、お前みたいな生き方をしてたら疲れてしまうんだよ。人のことばかり考えて、言葉の裏を探ろうとして、本心を見抜こうとして」

「……」

「俺と一緒に、飯を食いに行くとする」

「飯……う、うん」

「俺は肉が食いたいと言った。お前は蕎麦がいいと思っていた。どうする」

「……肉を食べに行くと思う」

「だろ? でもな、普通は自分が食べたいものを勧めるんだよ」

「そうなのかな」

「ああそうだ。かくいう俺もそうだからな。そしてお前は思う。蕎麦が食べたかったけど、相手が嬉しそうだからこれでよかったって」

「……確かにそうかも知れない。蕎麦を食べられたとしても、僕はずっと気になっていると思う。本当にこれでよかったのか、肉にした方がよかったんじゃない

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